2018年9月7日金曜日
銅・亜鉛バランス
吉冨 信長
8月23日 21:54 ·
血清での銅/亜鉛 比は1前後が理想です。もし、銅/亜鉛 比が1より大きいと、銅(Cu)が過剰で亜鉛(Zn)が不足しているという栄養状態の可能性があり、または体内で「炎症」が起きている可能性があります。
臓器や各組織で炎症が起きていると銅(Cu)の血清濃度が上昇し、同時に亜鉛(Zn)濃度は低下します(J. Nutr.,109,1979,1432-1437)。
特に高齢者ではCu/Zn比が2を超える人が多く、これは単に亜鉛不足であるか、または炎症が起きている可能性が高くなります(Biogerontology, 11 ,2010, 309-319)。
他にもCu/Zn比が高いと、心血管疾患による死亡リスクの上昇(Epidemiology, 17,2006, 308-314 ; Eur. J. Clin. Nutr., 50,1996, 431-437)、悪性腫瘍の指標(Biol. Trace Elem. Res., 94,2003,113-122 ; Cancer, 63,Feb,4,1989,726-730)。そして高齢者の全死亡率の上昇(Biogerontology, 11 ,2010,309-319)に大きく相関しています。
体内に酸化ストレスが持続していると、血液中に流れているアルブミンというタンパク質から亜鉛イオンが離れ、組織や細胞に送り込まれます。アルブミンから遊離した亜鉛イオンは、酸化ストレスが続いている組織で、メタロチオネインという強力な抗酸化タンパク質の合成を誘導するのです。こうして、血液中には亜鉛が減少していくわけです。(しかし、このときアルブミンレベルは減少せずに亜鉛のみが減少する。)
一方、銅については、酸化ストレス下では、肝臓でセルロプラスミンという銅輸送タンパク質が合成され、血液に送られます。このため、血液中には銅の濃度が上昇していくという仕組みです。血清のセルロプラスミンは抗酸化剤とし働いています。
また、慢性炎症がおきていると、組織からTNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインが上昇し、このときアルブミンの合成が抑制され(すなわち亜鉛が低下)、セルロプラスミンの合成が促進されます(すなわち銅が上昇する)。(J. Nutr., 118,1988,375-381 ; J. Immunol., 159,1997,1938-1944)
最近では、銅/亜鉛バランス比をこのような栄養パラメーターや炎症状態の指標としてだけではなく、「ホルモン」状態を表すものとして考えられてもいます。
中でも「インスリン」です。血清アルブミンの合成スピードはインスリンに依存しています。アルブミンは亜鉛を保持する役割もあることを考えると、インスリン作用の弱い糖尿病患者では血清の亜鉛濃度が低いことも納得できます(PLoS One, 8,2013, e61776)。事実、糖尿病患者はCu/Zn比が高いです。そのため、Cu/Zn比が高いということは、インスリンの効きが悪いインスリン抵抗性や、インスリン分泌不全の可能性も考えられるのです。
※また、インスリンはセルロプラスミン(=銅タンパク)の合成も抑制させるため、インスリンに何かしらの障害があると血液中のCu/Zn比を上昇させます。
他にも、ACTH、チロキシン、エストロゲン、コルチゾールのようなホルモン物質も血清のセルロプラスミン(=銅タンパク)のレベルを上げます(Physiol. Rev., 65,1985,238-309)。実際に合成コルチゾールを投与すると 、銅レベルの上昇、亜鉛レベルの低下によってCu/Zn比が上昇することがわかっています(Am. J. Med. Sci., 282,1981,68-74)。Cu/Zn比が上昇すると、余剰の銅によってノルアドレナリン・レベルを上昇させ、不安、パニック障害、睡眠障害、被害妄想などを起こしてしまうかもしれません。
以上をまとめると、血液における銅/亜鉛比は生体の状態を示す重要なパラメーターであり、栄養状態、炎症の有無、ホルモンレベルなどが推測できます。
加齢にともない、Cu/Zn比は増加することが多数報告されていますが、これは老化による酸化ストレスを抑えようとしている抗酸化タンパクの状態を示すものでもあります。
そういう意味ではアンチエイジングとしてこのCu/Zn比を低下させることを目標に持つのも一つの指標となるでしょう。また、最近では、統合失調症、うつ病、自閉症などにもCu/Zn比の上昇がみられることがあり、この数値を改善すること(炎症の抑制、栄養の補給など)を治療の一つに加えられてもいます。
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